アハマドは自慢の息子
6月のはじめに、バグダッドからアハマド・サラーム君がお父さんとともに、アンマンのキングフセインがんセンターに定期検査にやって来ました。
白血病治療のための飲み薬は、もう必要なく、血液や骨髄の検査結果も問題なしです。ふつうの子どもと同じように学校に通ったり、遊んだりしても大丈夫です。
アハマド君は、2003年4月バグダッド陥落の数日後から、お腹が膨れ上がり高熱が続きました。バグダッドの病院で白血病と診断され、4か月間の治療を受けましたが、薬も十分になく病状は悪くなるばかりでした。幸い、ポール・ニューマン基金の支援で、アンマンのがんセンターで治療を受けられることになり、家族とともにアンマンとバグダッドを行ったり来たりして3年間治療を続けてきました。初めてアンマンにやって来たときは、バグダッドからアンマンに着くまで「家に帰りたいよう」と泣きっぱなしだったそうです。病状より、ホームシックの方が重症だったといいます。
2005年冬の死海への遠足(JIM-NET主催、3家族が参加
詳細は「ちょっと一息…
死海ピクニック」を参照してください。)の際、お父さんは治療中のアハマド君が怪我をしたり風邪をひいたりすることをとても心配して、ずっとつきっきりでした。
「もう、そんな心配もしなくてよくなりましたね」とお父さんに言うと、アハマド君を呼び寄せ、
「ほら、見てください」と膝小僧を指差しました。なんと古いの新しいの合わせて、両方の膝が10か所ほどすりむけています。バグダッドで、学校から帰って近所の友達とサッカーをしては作った傷なのだそうです。どうりで真っ黒に日焼けしています。
アハマド君はこの6月に小学1年生の課程をクラス一番の成績で終了。9月からは2年生です。(病気治療で入学が1年遅れたため、実際は他の子たちより一つ年上です。)
6月のある日、試験が終わって帰宅してきたアハマド君がしょんぼりと肩を落として、お父さんの前に現れたそうです。ポケットから折りたたんだテスト用紙をおずおずと差し出し、「9点しかとれなかった…。(10点満点)」と言いました。お父さんは「何で満点とれなかったのか?
何をまちがえたんだ?」とがっかりしながら、テスト用紙を開きました。そこには、みごと10点満点の解答とアハマド君の満面の笑顔があったそうです。「親をがっかりさせて、あとで喜びが倍になるように、ちゃんと心得ている。利口な子なんだから!!」とお父さんご自慢の息子です。
アハマド君の通う小学校は男女共学で全校児童約300人、各学年2クラスずつあります。学校を休むと学級担任の先生から「アハマドがいないとクラスがまとまらない。だれもお手本になる子がいない。アハマドは"ロウソクの灯りのような存在"だ」と電話がかかってくるそうです。アハマド君の好きな教科は理科。特に、動物に興味があるそうです。将来の夢は学校の先生。おばさんが学校の先生なので、あこがれているんだとか…。
お父さんにバグダッドでのアハマド君の通学に危険はないのかと尋ねると、
「非常に危険。近所の子どもをグループにまとめて親が交代で送り迎えをする」との返事でした。3か月前に同じ質問をしたときには「親は、アハマドの健康上の理由で付き添うのであって、治安上の問題はまったくない、安全なエリアだ」と言っていたはずです。いわゆるホットゾーン(治安の悪い危険な地域)はアメリカ軍の作戦や武装集団の動きによってめまぐるしく変わり、昨日まで安全だった通りが次の日には狙撃兵が潜む危険な地域に変わってしまうのだといいます。
アハマド君の住むエリアでは、この2か月で二つの大きな爆発があり250人あまりが亡くなったそうです。
「そのうちの一つは、13歳の少年が自爆犯。体に爆発物を巻きつけ、トラックの荷台に家財道具を載せその下に爆発物を隠していた。彼の偽の身分証と許可証、あどけない顔つきにだまされて、チェックポイントを通してしまった。モスクに近づいたところで自爆した」
「電気? あることさえも忘れていたよ。水道の水に毒物が入っていて、近所の子どもが死んだ。一体誰が何の目的でやっているのかわからない」
「シーア派とスンナ派を争わせ、隔離しようとしている動きは確かにある。シーアとスンナの夫婦が離婚するよう脅迫され、別居せざるをえなくなった。家族を守るために、家を出た父親が通りを隔てた建物から子どもの姿を人知れず見守っているなんていう話もある。でも、実際、こんな状況の中でも、自分の親戚でこの6か月間に宗派を超えた縁組が二つもあった。宗派の違いなんて、イラク人はもともとこだわっていないんだよ」アハマド君のお父さんは、バグダッドの近況を熱く語ってくれました。
バグダッドに戻る前日、アハマド君にバグダッドのことや学校のことを絵に描いてほしいとお願いしたところ、
「アハマドはバグダッドに帰れるうれしさで考えがまとまらないらしい」とお父さん。ところが、突然、お父さんに何か耳打ちし始めたアハマド君。「それはいいね」とお父さんに言われ、隣室にこもって絵を描き始めました。
2日前にアンマンのスタジアムで観戦したという「イラク対パレスチナ」のサッカーの試合の様子でした。
西村 陽子 (JIM-NET/アラブの子どもとなかよくする会)
絵: パレスチナ(黒のユニフォーム)のゴールに迫るイラクの選手(緑のユニフォーム)
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