続・夏でもウールな羊たち

 まず、なぜ、“続”なのか…。前回の原稿の題名は「夏でもウールな羊たち」のつもりだった。が、なぜかファイル名をつけるときに「夏でも」が落ちてしまった。そして、それに気がついていたのに、直さずにそのまま送ってしまい、そのまま題名になってしまった…、といういきさつがある。
 “夏でもウール”は数年?ずいぶん前に買った夏用の“サマーウール”のスラックスのタグに書いてあった。履き心地はあまりさわやかとは言えず、やっぱり「夏にウールはちょっとねえ…(安物だったせいかな?)」だった。
 それで、ヨルダンの羊はどうかといえば、やっぱり「夏にそのいでたちはちょっとねえ…」という感じだ。で、冬はいいかといえば、雨にぬれた毛が束になって体にはりついたり、凝りになっていたりして、なんだかみずぼらしく、一年中かわいそうな感じがする。

日本ではあまり羊を見かけることはない。未年の私としては、ヨルダンにいるときは、どうしても猫より羊の存在が気になってしかたない。最も気になるのは、らくだだが、らくだの遊牧はヨルダン北部の都市部近辺ではほとんど見かけない。中南部の田舎か、砂漠か、観光地でないと姿を見られないのが残念だ。(私は、らくだのあのつぶらな瞳と、砂漠仕様の鼻の穴と耳、そして、足の裏が大好き。どうなっているのか、知りたいと思ったら、ヨルダンに来て実物を見ることをお勧めします。)

 羊にまつわる話の続きである。
 JIM-NETの事務所と銀行や旅行代理店、両替などのあるアブダリやダウンタウンに行くには、160フィルス(約20円)の路線バスが便利だ。20人くらい乗れるマイクロバスで、アンマン市内路線は運転手とドアの開け閉めと客の呼び込み・集金をする車掌がペアで乗っている。「次、とまります」のブザーはなく、車掌がバス停の名前を読み上げるので、降りたいところで手を挙げる。手を挙げるときは、人差し指を「1」のようにして、手のひら側を自分に向けてちょっと掲げるだけでいい。(教室で「はーい」と挙手するときもこの形だ。)


 先日、日も暮れて薄暗くなったころ、アブダリに向かう路線バスに乗った。乗客はみな、一日の仕事を終えて開放感にあふれたような、けだるいような顔をしている。昼間とは空気が違う。私の乗ったバスはなかなか客席が埋まらず発車しない。(基本的に満席になってから出発する。当然、時刻表はない。)
 客が思うように集まらないので、運転手は「早く客を集めろ」と高校生くらいに見える車掌をなじっている。結局、5席ほど空席のまま、見切り発車した。
 途中、車掌が道端で手を挙げている数人の乗客を見つけて、運転手に声をかけた。(車を止めたいときは「1」の指を地面に向けて、斜め下に差し出すのがヨルダン流。)
 しかし、車線変更が間に合わなかったのか、通過してしまった。「何で、止まらないんだ。せっかく客がいるのに!!」と車掌が運転手に抗議する。「おう、次はちゃんと拾ったるわ!!」と運転手は反撃。

 しばらくして「よし、そいつを乗せろ!」と運転手がバスを急停車させた。外はもう、すっかり暗くなっている。人影が見えないのをいぶかりながら、車掌はバスのドアを開けて
「アブダリ、アブダリ」と呼び込む。だれも返事をしない。乗り込んでこない。
「どこにいるんだ、客は?」すると、運転手が「おまえのまん前にいるだろ、そいつだよ、そいつを乗せろよ。さあ!」

 なんと、開いたバスのドアの前で困ったように立ちすくんでいるのは、頭だけ黒くて体は真っ白な“夏でもウール”な羊さんだった。暗闇に、ぼおっと浮かび上がる、ふっくらとした白いセーターを着ていた。もし、乗ってきたらバス代をおごってあげようかと一瞬思ったが、行き先が違ったらしく、乗ってこなかった。(群れからはぐれた迷い羊か、脱走羊だったと思われる。)
 ちょうど、ドアのすぐ近くに座っていた私は一部始終をくっきり、はっきり、見てしまった。窓から、彼の姿をみた乗客はくすくす笑い、後になって状況を把握した乗客は「ふざけんな」とばかりにチッチッチッと舌を鳴らした。
 それからというもの、困ったことに、私はバスのドアが開くたびに、外に羊が立っていることを期待してしまい、笑いが止まらなくなったのである。どうしよう、これでは、バスに乗れない…。

 今も、頭の中から白いセーターをきた羊の姿が消えない…。指も笑っている。今夜は羊のせいで眠れないかもしれない。

 実は、この話は、アンマンに到着したてのJVCの原さんとアンマンから帰国間近の高遠さんに、事件直後に話した。二人ともけっこう楽しんでくれたようだった。原さんに「ウールな羊たち」(本当は「夏でもウールな羊たち」の予定だった)の続編で書いたらどうかとすすめられたので、一人くすくす笑いながら書いてみた。

 こんな感じに、アラブ人はさりげなく楽しいことをやってくれる。日本人にはちょっとないセンスですよね? だから、はまるんです。

06年8月3日
(西村陽子 JIM-NET/アラブの子どもとなかよくする会 エイドワーカー。写真も)
※ 写真は、「羊飼いの少年と道路標識に従順な羊たち」JIM-NETアンマン事務所付近で。