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チェルノブイリ被災による奇形発生と遺伝的影響

 5月28日、都内で「チェルノブイリ被災による奇形発生と遺伝的影響」という演題でベラルーシ共和国のゲンナジー・ラジュク先生(元国立ミンスク遺伝性疾患研究所所長)の講演が行われました。講演の内容は、4月19〜21日にベラルーシで開催された国際学会「チェルノブイリ原子炉事故から20年、汚染地区での生活と健康回復のための戦略」でも発表されたものです。以下、そのリポートです。

【はじめに】
 被爆による遺伝的影響の有無、2〜3世代の影響の有無、そしてそれがどんな形で発生するのか、よくわかっていない。予測はできるが、はっきりとしたことが言えないのが現状である。
例えば、ベラルーシで被爆した子どもたちの甲状腺がんは、事故から10〜12年後にピークを迎えると予測されていた。しかし実際は、事故から4〜5年後に急増した。当初の予測の38倍の増加である。
 先天性異常でも同様のパターンが見られる。というのも、日米の文献から(これらの文献は古いので、正確性が疑問視されていた)、ベラルーシの被爆による遺伝的影響は、わずかな増加にすぎないと思われていた。

今後、以下の文献を活用して行くこととする。
@ パリ国立研究所 / A リヨン突然変異研究所 / B シカゴ リプロダクティブヘルス研究所

【広島・長崎になく、ベラルーシに見られる5つのファクター】
@ 胎児の発達障害が優位に上昇。(これは、人工中絶による胎児を研究して判明。)
A 高汚染地における、事故から3年間の、先天性異常の発生頻度が優位に上昇。
B 事故直後、高汚染地でダウン症がピーク。
C 高汚染地のゴメリ州で、放射線症や染色体異常の比率が急増。
D 高汚染地の胎児・新生児の頭囲が小さい(小頭症)。

上記のファクターと、ベラルーシが受けた被爆線量から、遺伝的影響を受けていると考えられる。

【妊婦の人工中絶】
人工中絶の胎児に見られる、発達障害の発生は上昇している。なぜ妊婦は中絶をするのか?
@経済的な理由による。障害児を育てるのはお金がかかるため困難。
A「家族計画」が未発達。(このために、もともと他の国に比べて人工中絶件数が多く、ベラルーシでは出産件数より中絶件数の方が多い。)
事故直後は、出産件数:18万件、中絶件数:30万件以上。つまり、被爆した多くの妊婦は、自分の子どもがきちんと成長するのか不安を感じていたことになる。

注) 生まれた子どもの疾患をフォローしていくのは時間がかかるため非現実的ととらえ、多くの妊婦たちは、中絶することで解決しようとした。

【先天性異常の管理システム】
ベラルーシでは、先天性異常の登録義務がある。これは保健省の管轄で、全国規模で実施されている。
《登録義務のある疾患》
@ 無脳症 / A 骨髄ヘルニア / B 口蓋裂傷(口唇口蓋裂) / C 多指症 / D 神経損傷 / E 食道閉鎖 / F 肛門閉鎖 / G ダウン症 / H 成長発達障害

【2つの調査方法】
A, ラジュク先生による調査方法
@ 17地区の汚染地域を、1981年〜2003年までの22年間調査。
A 慢性的被爆がなかった、北と西の非汚染地域30箇所。ヨウ素は見られたが、セシウムとストロンチウムが見られなかった。
@ とAの最初の3年間は優位の差があったが、3年以降は発生率が同じ。

B, フランスから提案された調査方法
フランスの国立放射線研究所と共同で研究を行うようになったのと同時に、研究方法を変えることを提案された。それはつまり、
@ 汚染地域:ゴメリ州、モギロフ州 / A 非汚染地域:ミンスク州、ミテスク州
上記の地域で調査を行った。
 非汚染地域でもスポット的に汚染地域が存在しまた、汚染地域でもスポット的に非汚染地域が存在する。そのためフランスの調査方法は、とらえる地域が大まかなため、地域差がなくなり、データーが滑らかになってしまう。フランスの方法で数字を出すと、現在は「汚染地域」の先天性異常発症率は「非汚染地域」より「少ない」という結果になってしまう。ちなみにIAEAは、両方のデーターの存在を認めている。

【ダウン症に焦点を当てる】
 チェルノブイリ原発事故の起きた、1986年4月26日から5日間の空中線量が一番多く、その後は一気に少なくなる。そして、この5日間に妊娠した胎児の、ダウン症発症率は高くなることが判明。なぜなら、卵子細胞に第一減数分裂が起こる10時間〜12時間の感受性が高くなるため、この期間に被爆して妊娠した場合、ダウン症の子どもが生まれる確立が高くなるという。実際、1987年1月のダウン症発生率はピークである。

 ベラルーシでの妊婦検診はほぼ100%実施されている。放射能による異常があるかどうか検査した結果、異常があれば本人に報告し、中絶するかどうか判断してもらう。
1992年以降はダウン症の検査の正確さが増したため、発生率もUPしている。

【高齢出産の可能性を消去】
 高齢出産、とくに37歳以上の出産でのダウン症発生率は高くなる。しかしベラルーシの場合、妊娠する女性の年齢は下がってきていた。なぜなら、すでに第一子を出産している女性は、被爆していることをおそれ第二子を妊娠しないように気をつけており、若い女性は第一子を中絶する確立が高いことを考慮し、できるだけ早く妊娠するようにしていた。

【染色体異常による奇形】
2種類ある。
@ 染色体の数の変化。遺伝しない。
A 染色体の数は正常だが、構造に変化。遺伝するため、先天性異常になる可能性大。

 ベラルーシでは奇形のデーターベースが8000件あるが、そのうちAは900件。今後も@Aの区別をして調査にあたらなければならない。
 Aは事故後、汚染地域でも非汚染地域でも発生率が上昇したが、とくに汚染地域では事故前より28%も上昇した。つまり今後、遺伝される可能性が高くなると言える。

【小頭症について】
 事故後、頭囲・身長・体重を計測すると、身長と体重には優位の変化は見られないが、
頭囲は、優位に小さい(ただ頭囲を測るだけでなく、身長・体重の比率と確認)。
 しかし、成長して精神科医の診断を得ないと確定できない。知能遅延が顕著になるかどうか、フォローアップをしていかなければならない。

【結論】
@ 今後、チェルノブイリと日本の被爆について比較する上で、
  ○ アイソトープの種類 / ○ 線量 / ○ 集団の遺伝的特徴 / ○ミネラルなど食生活
  の違いを考慮しなければならない。
 さらに、
  ○ 事故直後3年間の奇形発生率が上昇 / ○ 1987年1月にダウン症のピークが見られた。 / ○ 遺伝型の染色体異常の発生率が高くなった。
  これらは、日本の被爆データーと矛盾しない。
A 今までの調査は2世代のみ。事故後の女性は出産期に入っているため、どのような子どもたちが生まれてくるか、今後も調査を続けていくべきである。

■ ゲナジー・ラジュック:元国立ミンスク遺伝性疾患研究所所長。先天異常児の病理解剖に長年携わる。ミンスク遺伝性疾患研究所は1967年に設立され、これまでの剖検数は2万件に及ぶ。
主な論文:
Cytogenetic effect of additional exposure to low levels of ionizing radiation (1990) .
Frequency changes of inberted anomalies in the republic of Belarus after the Chernobyl accident (1995)
Possible Genetic Consequences of the Chernobyl Nuclear Accident on Belorussians (1996)

リポート:国井 真波(JIM-NET/JCF)