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JIM-NETはイラクのがん・白血病の子どもたちの支援をしています。
 

講演:イラク小児ガン治療の現状―イラク人医師を囲んで― 
2006年2月25日(土)18:00〜20:00
東京都文京区民センター2A会議室にて

 JIM-NETの招きにより来日されたバクダッド中央子ども教育病院の医師、イブラヒム・ナシール先生を迎え、講演会が開かれた。今回の来日は、イラクで急増している小児ガン、その中でも特に多発する白血病の子どもたちを救うために、イラク国内に臍帯血バンク設立をめざす準備として、日本の学術的および一般市民からの支援を訴えることを目的としている。会場には、さまざまな分野の専門家・市民50余名が集まり、熱心に聞き入った。
 はじめに、JIM-NETの医療コーディネーター・井下俊医師から、イラクに臍帯血バンクを設立するためには、イラクで小児がん治療の中心的役割を担うイブラヒム先生がキーパーソンであると紹介があった。
 つづいてJIM-NETの活動目的、現在までのイラクでのJIM-NETの活動について説明する。JIM-NETの活動目的は、小児がん患者の生存期間延長、小児がん患者のQOL(quality of life 生活の質)の向上、イラクの小児がん患者(戦争被害者)の声をとどけると同時に、根本的にこのような子どもたちを増やさないために、争いの愚かさを訴え続けていくことも重要であると話した。
 さらに井下医師からは、病気の子どもたちの様子がスライドで紹介される。顔のあちこちに腫瘍ができ、もとの顔立ちさえ分からなくなってしまっている子どもたちの写真。その痛々しさに思わず目を背けてしまいたくなるが、井下医師によると、このような状態の子どもたちはバスラには数えきれないほどおり、そのあまりの数の多さにパニック状態にさえなっているとのことである。

 井下医師のお話につづき、いよいよイブラヒム先生のプレゼンテーションが始まった。
 イブラヒム先生はまず、ここで話をする機会を与えてくださったことを、JIM-NETやご来場の皆様に感謝します、と一言。
 現在、イラクでは小児ガン患者が増加し、イブラヒム先生の病院での小児急性リンパ性白血病の3年の生存率は45%以下(西欧諸国では80%)という低い結果になっており、その原因として、下記のようなことが挙げられるとした。
 1.最新診断検査機器の欠如
 2.支持療法や輸血・血液製剤、抗生剤などの欠如
 3.感染症の多発と有効な抗生物質の入手困難
 4.患者の遠方からの通院、などがその治療を一層困難にしている
  4については、通院が経済的に困難な患者・家族のために、JIM-NETの援助で病院の近くに宿泊施設をつくる可能性が検討されている、という話も付言された。
 イブラヒム先生の病院では入院は24床(4人部屋が6つ)しかなく、ひとつのベッドに1人を上回る数の患者が寝ており、時には床で寝ることもあるとのこと。通院については、月平均で350人の患者が通っているとのことである。どちらにしても、ベッドが足りないので短期間で出て行ってもらうことになるのだという。
 さらに、イブラヒム先生は、これまでの、そしてこれからのJIM-NETにも言及される。その中にはもちろん臍帯血バンク設立も含まれている。イラクでは年間約100万の出産があり、その50%が自宅で、50%が病院で行われるとのことで、「臍帯血バンクのための材料は十分あります。ただ、その設備を整えるためには日本からの援助が必要です」と発言した。臍帯血バンクを設立し、最終的には移植部門を作りたいとのこと。また「イラクと日本の交流を図ることも重要です」というその言葉を裏付けるように、今回の短い滞在期間中、イブラヒム先生は京阪臍帯血バンク(大阪府赤十字血液センター内)、および日本幹細胞移植学会にも足を運ばれた。

 

  その後、参加者との質疑応答に入った。以下、その概要。
Q: 臍帯血バンク設立のメリットとは?
イブラヒム医師: 幹細胞移植手術が可能になる。それによって助かる多くの子どもたちがいる。
Q: 臍帯血バンクの設立に向け、どんなサポートが必要ですか?
イブラヒム医師: イラク政府からも日本からもサポートが必要。今後はイラク政府の関係者とも話し合いをする予定である。設立は2〜5年後を考えている。
Q: イラクでは治療自体は無料で施されるとのことだが、ストリート・チルドレンの子どもたちが、病院で治療を受け、治ったという事例はあるのか?
イブラヒム医師: 病院には親、親戚が必ず同行するので、子どもだけで病院に来ることはない。
Q: 臍帯血バンクの設立は可能だと思っているか?
イブラヒム医師: 意志さえあれば不可能なことはない。それに向けて努力するつもりである。
Q: 他の国から小児がん患者に対するサポートはあるか?
イブラヒム医師: 現状では少ない。
イラクはチグリス・ユーフラテスからの文明の歴史がある国である。現在は不幸な時代だが、それは今だけのことで、そのうち(援助を受けるのではなく)他の国に手を差し伸べるときが来る。
Q: 臍帯血バンク設立には、宗教的な問題はあるか?
イブラヒム医師: それについては色々な側面からリストを作り、政府や宗教指導者に打診をし、(臍帯血バンクが宗教的に問題がないか)検討してゆく予定である。
井下医師: (補足して)アラブの世界では、自分の子供の臍帯血は、他人ではなく自分の家族や親族に優先的に使いたい、という人が多い。臍帯血は遺伝的病気、サラセミアなどにも有効である。
Q: 臍帯血バンク設立を最初に言い出したのは誰か? それを初めて聞いたとき、イブラヒム先生はどう思ったか?
井下医師:
私が言い出した。高度医療ということもあり、最初はイブラヒム先生たちは「そんなことできるのか?」という反応だった。
イブラヒム医師: いやいや、最初から熱心だった! そうでなければイラクがこういう状況にある中で11時間も飛行機に乗って日本に来たりしない。(会場が笑いに包まれる)
Q: 臍帯血バンクの設立はいつになりそう?
井下医師: まだまだ先。「バンク」というとネットワークも必要だし、大掛かりになるが、@採って、A分けて、B凍結する、というプロセスはラボレベルで、3千万円くらいでできるので、それは2〜3年のうちには作りたい。

 最後に、会場にいらした小児科医の女性から一言、
「ぜひイラクに臍帯血バンクを作ってほしい。そして臍帯血による白血病治療の世界の中心的存在になってほしい。きっとできます!」

 支援活動の際の「ニーズの正しい把握」がいかに重要であるか、そして目的の実現のための地道な努力がいかに大切なものであるかを再認識した2時間でした。
 初めての土地、タイトなスケジュールにもかかわらず、熱のこもったお話をしてくださったイブラヒム先生に、そしてご来場くださった方々に感謝申し上げます。



当日配布資料 (pdfファイル 約1.7MB)
上の画像をクリックしてください。
別ウィンドウでpdfファイルが開きます。
リポート:菅野 久美子(CADU-JP)
写真:志葉 玲(フリーランス・ジャーナリスト)
国井 真波(JIM-NET)

協力:井下 俊(JIM-NET)
北川 直実(CADU-JP)
長谷川 宏(CADU-JP)

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